人工骨と自家骨
- 2023年7月12日
- インプラント
特にインプラント歯科治療において最大の問題点となるのは、インプラントフィクスチャー(チタンでできたインプラント本体のこと)を埋入するための顎の骨が充分にあるかどうかということです。埋入されたインプラントフィクスチャーの周りは、顎の骨に囲まれる、接触した状態にしなければなりません。もし、周りに骨がない、骨が接触していないならば、何らかの方法で、骨に接触した状態にする必要があります。その一つの方法が、自分の骨をからだの他の部位から切って持ってくる自家骨か、自分のカラダの一部ではなくて人工の物質、つまり人工骨でインプラントフィクスチャーの周りを接触させることとなります。
この自家骨、人工骨には、歴史的な変遷があります。また、国によっての違いもあります。自家骨、つまり、自分のからだの他の部位から骨を切って採取して、その骨をインプラント治療のときの、骨がない部分に利用する方法が、以前は日本でよく行われました。具体的には、腰の骨を切って、そこから骨を採取して、インプラント埋入部にいれる方法が、以前は歯科の大学病院を中心によく行われました。これは、しばらくの入院を必要とする方法です。また、入院するということは、金銭的にも時間的にも多くを必要とします。
このような理由から、歯科の大学病院、医学部の大学病院の口腔外科、または、総合病院の歯科口腔外科などの限られたところでしか行われませんでした。その後、この入院を必要としない方法がいろいろと考案され、そのうちのひとつとして、インプラント専門医の一部において、口腔内の他の部位から、骨を採取する方法が流行りました。前方の下顎の先(顔の一番下)から、下顎の前歯の根っこの先の間の部分、歯科用語で言えば、オトガイ部から骨を切り、削りだして、それを粉砕して使用することが、インプラント歯科界でよくおこなわれ、この方法でインプラント治療ができるようになってはじめて、一人前のインプラント歯科医師だと多くの歯科医師の間で信じられていた時代もあったようです。その結果、日本国内で、もう2度とインプラント治療を受けたくない患者さんが増えてしまいました…下顎の著しい腫れと、強い痛みが伴うためです。また、中には、下顎の真ん中の骨の採取ですので、顔貌の変化が気になってしょうがないという患者さんも現れました。唇(くちびる)とその周辺の知覚が麻痺する、鈍くなる患者さんも現れました(当時は、この部位には大きな神経がないので、そういう知覚に対する影響は起こらないと考えていたインプラント歯科医師が多くいました。)これらのことから、現在、この方法でインプラント治療を行うインプラント歯科医師は減少します。
そのため、現在では人口骨という骨にかわる材料を用います。これは体の他の部位から骨を採取する方法ではありません。自家骨と人工骨とでのインプラント治療の成功率はどうなのかというと、ほぼ同じです。歯科インプラント研究者によっては、自家骨の方がむしろ感染する率が高かった、そのリスクが高いという結果もあったようです。
結論として、インプラント治療の結果が変わらないのなら、からだに対するダメージが高い、侵襲が大きい、そして、費用が高い自家骨よりも、人工骨を使用する方がいろいろな面でよいと考えています。