ステロイド軟膏 ( 口の中 )
- 2023年11月9日
- 口腔外科
ステロイド軟膏 ( 口の中 )
口の中や舌や唇に何かができたと言って心配されて、来院をされる患者さんがしばしばいらっしゃいます。それらのできものの中には、口内炎が確認できる場合も多くありますが、口内炎などができると炎症を抑えるためにステロイドの含まれた軟膏を使うことがあります。口内炎の痛みの元は炎症によって起きているため、炎症を抑える効果のあるステロイドの入った軟膏を使ってその炎症を抑える事で痛みを下げる事は出来ますが、そのできものの原因によってはステロイドが含まれた軟膏を使ってはいけない場合もあります。今回はステロイド軟膏使用時に気をつけるべき病気・内容について解説したいと思います。
ステロイドとは
ステロイドは炎症を引き起こす体の中での反応を強く抑える効果があります。アラキドン酸カスケードと呼ばれる体の中での反応が、炎症の発生に大きくかかわっていますがステロイドはこの炎症の起こる流れを強く抑える事で、炎症によって起きる痛みや腫れを大きく抑える事が出来ます。しかし炎症というのは体に害のある物質を排除するための免疫反応の結果起こる作用なのでこの異物を排除するための免疫反応の結果である炎症を抑えていいのかダメなのか、それによって口の中にできたできものや傷に対してステロイドの含まれた軟膏を塗っていいかどうかが決まります。そのため、容易になんでも使用するというのはよくありません。
ステロイドを含む軟膏を使うことのある疾患
ステロイドの含まれた軟膏を使っても差し支えのない対象は、ウイルスに感染していない傷(口内炎)や口の中にカンジダなどの真菌(カビ)がない場合です。先に書いたように炎症とは、つまり免疫反応の結果起きる防御反応なので
その相手の異物であるウイルスやカビがいる場合は逆に炎症を抑える事で、その異物が暴れ出してしまう事があります。下記のような傷はステロイド軟膏を使用しても問題ありません。
・頬や舌を噛んでしまってできた傷(口内炎)
・栄養不足でできてしまった口内炎
・義歯がすれてできてしまった傷
ちなみに過剰に自己の免疫細胞が暴れすぎてしまう自己免疫疾患や非感染性の疾患であるリウマチなどでも利用されるくらいステロイドの免疫作用を抑える力は強いです。
ステロイド軟膏を使ってはいけない疾患
ステロイドを含む軟膏を使ってはいけないものは、ウイルス感染があったりカビに感染している場合です。例えば口の中や周りにできる口内炎の原因ウイルスの一つに口唇ヘルペスウイルスがありますが、このウイルスに感染している状態でステロイドの含まれた軟膏を塗るとウイルスが急激に増殖して症状が悪化します。体の中での免疫反応がウイルスの増殖を抑えているため、その反応が抑え込まれる事でウイルスが増殖してしまうということです。
細菌に感染している場合
細菌感染とウィルス感染は別物です。細菌感染の場合はウイルス感染ほどステロイドによって影響を受けないと言われています。これは細菌に抵抗する免疫機構とウイルスに抵抗する免疫機構の違いからくるものです。それでも、ある程度はステロイドによって細菌に抵抗する免疫機構も抑制されます。そのため、何かしらの理由で炎症を抑えたい場合は同時に抗菌薬を利用するのが好ましいと考えられます。一方で、カンジダなどのカビ(真菌)の場合はカビに抵抗する免疫機構はウイルスに抵抗する免疫機構と同じ系統なのでステロイドによってカビは大きく増殖してしまう可能性があります。そのため、真菌に対してもステロイドを含んだ軟膏を使う事は避けなければいけません。